『自然と人がつくり合う価値の再生へ』 特別対談 散居村特別セミナー(後編)

2024.01.29 / 楽土庵について

水と匠では、昨年度から観光庁の「サステナブルツーリズム推進」モデル事業として、楽土庵を軸とする散居村保全と未来継承事業に取り組んでいます。

その一環として2023年10月8日(日)、富山大学教授で散居村研究者でもある奥 敬一(ひろかず)さんと、富山市出身で服飾史家として「ポスト(新)ラグジュアリー」を提唱する中野香織さんを講師に迎え、「となみ野散居村」についてあらためて学ぶセミナーを開催しました。

レポート後編では楽土庵のプロデューサー林口砂里がファシリテーターを務めた奥さんと中野さんの特別対談、会場との質疑応答をお伝えします。

散居村における「本質的価値」とは

 林口:奥先生の「文化景観とは人と自然がつくりあうものだ」というお話に、散居村はまさに文化景観だと深く実感しました。我々だけでは砺波平野の散居村保全は到底できません。どのように多くの方にご参加いただき、一緒に活動を進めていけるかがとても大事だと思っています。

本日はお二人それぞれに示唆に富むお話をいただきました。中野さんは奥さんのお話にどういったことを思われましたか?

中野:文化的景観とは、サステナビリティという文脈で語られていることと一緒だと感じました。日々の生活をどれだけ美しく幸福に持続させていけるかは、ラグジュアリー領域の課題であり現代を生きる全員の課題でもあると思います。お話のなかで文化的景観には本質的価値の明文化が必要とありましたが、散居村においてはどのように表現されるものでしょうか?

奥:本質的価値とは、土地の自然環境のなか人々がどう生きてきたかのメインストーリーを手短に表す文章になります。散居村の場合は、ひとつは水。庄川は非常に暴れる川でしたが、上流から土砂を運んで暴れるおかげで扇状地がつくられました。地理的には扇状地は水捌けが良過ぎて水田になり難いのですが、砺波平野の場合は庄川の流路が網の目のように残っていたので水を豊富に得ることができました。そして川の流路を固め、開拓のように人が入っていく際、微高地に家を建て周りを耕した結果、家の散らばる散居村ができていきました。

もうひとつは風。西から吹く強い季節風を防ぐために屋敷林がつくられた。それがこの地域らしい風景をつくりあげてきました。そしてそれらを継承しつづけてきた土徳という精神性が加えられるでしょう。

ラグジュアリーの文脈からみた散居村の価値

林口:田んぼんも家も屋敷林も全て人がつくったものですが、とても美しく感じるのは、人と自然が一緒につくりあってきたものだからだと思います。この美しさはサステナブルやSDGsといった文脈においても非常に重要なものだと、ますます価値を感じています。

奥先生は中野さんがお話しくださったラグジュアリーの文脈からみた散居村について、どのように感じられましたか?もしご質問などあればお願いします。

奥:ラグジュアリーとは馴染みのないものと思っていましたが、案外、僕らが普段考えていることと価値観が近いのだと知りました。ラグジュアリーを牽引していくような人にとって、砺波平野での滞在はどういう価値を持つんでしょうか。またここでどんな体験をしたいと思われるのでしょう。

中野:私がいう新ラグジュアリーは、観光業界における新・富裕層観光、モダンラグジュアリーと呼ばれるものとほぼ同じです。そこではただ高級な五つ星ホテルはもういい、旅に出るならば人生を変えるようなその土地にしかない触れ合いを体験したい、という要求が広まってきています。砺波平野にも宿泊の他にも高額のお買い物や体験をされる方が実際に来られています。これからはさらにそういう方向けの宿泊施設をつくっていくことも必要じゃないかと思います。

お客さまに価値を教えてもらっている

林口:楽土庵の開業には実は不安もありました。ですがちょうど開業から一年経った今は想像していなかったほどのお客様、特に海外の方に来ていただいています。昨日もシンガポールとハワイの方がカップルで2泊されて、お買い物もたくさんしてくださって、次の予約も入れてくださいました。そういった方が求めてらっしゃるのは私たちが当たり前に思っている田んぼの風景、またその中に家と屋敷林があるこの土地の風景なんですね。辻々にある石仏に驚かれたり、コミュニティの人々の暖かさにも感激されます。あとは最近アメリカのCNNが散居村の取材に見えて、水路の美しさに驚かれていました。水路ってもっと汚いものだと思っていた、すごい!って。

楽土庵のある野村島には「越中いさみ太鼓」という郷土芸能があり、練習会場を見学して太鼓を叩かせてもらうプログラムも大変人気です。地域の方との交流がとっても楽しいそうなんです。訪れる方に地域の価値を教えていただいてる状況で、こういう施設がもっと増えてもいいんじゃないかなと思いますね。

会場からの質疑応答

ここからは会場の方にもご意見をうかがっていきたいと思います。会場の皆様から何かご意見などありますでしょうか。(パッと手があがる)

ー私は大阪出身で縁あって砺波の方と結婚しまして、ただ仕事のために40年ほどは茨城県に住んでいました。それで去年やっと砺波に家を持ちまして、こちらのすっと田んぼが広がって山が見える景色をほんとうに素晴らしいと思うようになりました。それでも40年前に比べると新しくビルが建っていたり、変化を感じます。そこで保全活動に参加する場合どういった団体があるのか、ぜひ教えていただければと思います。

また楽土庵にもうかがいたいのですが、地元ですとなかなか泊まる機会もなく、お値段もしますので、見学など受け付けてらっしゃるのか教えてください。

林口:ありがとうございます。まず、さまざまな団体の方向けに見学会や視察会の受け入れをしています。また私たちはこの価格帯でやっていますが、いろんな価格帯の施設が増えていくのが良いと思っています。そのためにも、我々はここで宿が成り立つことをお見せできなくてはと頑張っているところです。最後に、保全に勤めてらっしゃる方はたくさんおられまして、本日はカイニョお手入れ支援隊代表の松田さんが来られているので、活動をご紹介いただきますね。

屋敷林の保全、野焼きと焚き火

松田:カイニョお手入れ支援隊の松田です。我々は高齢の方の屋敷林の手入れをさせてもらっています。一人~二人で住まわれている方が多いので、周りの人が助けてあげないと手入れができません。われわれだけでは手が及びませんので、地域で守っていく仕組みが必要で、「こういう支援が必要だ」と知ってもらうために活動しております。

林口:ありがとうございます。他にも何人かお話を伺いたい方がいらっしゃるので、皆様もう少しおつきあいいただけたらと思います。

柏樹さん、いらっしゃいますか。ずうっと屋敷林の保全に携わっておられる柏樹さんは先日屋敷林のガーデンツアーを催してくださいました。そのお庭には神社の参道かと思うような樹齢300年400年を超える木々がいくつもあり、私は度肝を抜かれました。そういった見学会などは今後みなさんご協力いただけそうでしょうか。

 柏樹:質問の答えにはならないのですが、今一番弱っているのは落ち葉や枝を自宅で燃やせないことです。それがよくない。CO2排出削減というけれども、これまでは燃やして、その灰をまた屋敷林に還してきていたんです。維持の大変さを軽減する意味でも燃やせるようにしてほしいと思います。

林口:柏樹さんたちは地域でルールを決めて、「野焼き」ではなく「焚き火」をしてらっしゃいますよね。野焼きは良くないが焚き火は良い、その線引きは実は曖昧です。ですので、まずは地区ごとに焚き火のルールを決めて、剪定枝や落ち葉を燃やしていけたらいいのではないかと思います。ルールもサンプルが既にあるので皆さんお使いいただけます。

落ち葉を堆肥化して土に還す

林口:また落ち葉を別の形で活用もできると思っています。落ち葉から堆肥をつくってらっしゃる山崎さん、事業についてお話しいただけますか。

山崎:南砺市で有機農業をしています山崎です。これまで、大変な労力をかけて捨てられていた落ち葉や刈草をなんとか土壌に還元できないかと、夏に「株式会社ツチカラ」という会社を設立しました。僕自身、農業を営むなかで落ち葉が良い堆肥になることを実感してきました。一方でいま化学肥料がどんどん高騰している困難の解消にもつながると思っています。事業としてはじめたので、落ち葉で困られている方はぜひご連絡ください。

村全体がちょっと盛り上がっている

林口:ありがとうございます。それから…野村さんは楽土庵のある野村島の神社の禰宜さんでらっしゃいます。野村島の皆さんは楽土庵をどう思われていらっしゃるでしょう。

野村:いさみ太鼓には若い男女も多く参加していますが、皆よろこんでお客様を案内しています。村全体がちょっと盛り上がっているような印象ですよ。協力的な人ばかりで私としても嬉しいですね。私がいさみ太鼓体験を見学させてもらった際には、アメリカのシカゴから来られた方がハッスルして太鼓を叩いてらして、こんなにエキサイトするものなんだと驚きました。

地域活動に積極的な若者をみていると、彼らの親も同様の傾向があります。逆に親が都市部の大企業等で働いていて地域との関わりがないと愛着が育ちにくいと感じるので、地域における雇用も大事だと思っています。堆肥事業も雇用創出としても大事ですよね。

何かを変えるのは人の情熱

林口:まだまだ時間は足りないところですが、奥さん、中野さん、最後に一言ずつお話しいただけますでしょうか。

奥:これだけ関心をお持ちの方がいらっしゃることが希望です。いろんな活動をされてる方がいて、ネットワークがつながりそうなところが嬉しいですね。散居村を恵みとしてうまく受けとめて、いかしていく仕組みをつくっていけたらと思います。

中野:何かを変えるのは人の情熱です。素晴らしい方がたくさんいらっしゃるので、それぞれがつながっていくと大きなうねりが生まれていくんじゃないでしょうか。私のほうでも喜んで取材にうかがいますしPRにも協力しますので、ぜひお声かけください。

林口:ありがとうございます。もう個人の維持管理では限界がある、地域内外の人が一緒に取り組んでいくべき時にきています。水と匠でも、保全に参加いただける仲間を募っていくコミュニティ事業を始めていきますので、ご興味のある方はぜひお知らせください。

それでは皆さまあらためまして、奥さん中野さんに拍手をお願いいたします。そしてご来場いただきました皆さま、本日はほんとうにありがとうございました。


ART of FORKS

-美しい暮らしをつくりあう活動共同体-

水と匠では、「土徳」に学びながら「これからの美しい暮らし」をつくりあっていくコミュニティ事業を始めます。

コミュニティへ参加ご希望の方はこちらまでご連絡ください。

またコミュニティ事業の一環として、Podcast番組の配信とnoteの記事更新を始めました。

富山の自然や精神性に対する想いなどART of FORKSへ寄せたさまざまな仲間たちの声をお届けしています。

ぜひお聴き&お読みください。

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