いつの日か散居村を世界遺産に-散居村の保全・継承につなげる仕組みづくり関係者会議 2023

2023.09.09 / 楽土庵について

楽土庵は観光を地域再生につなげる「リジェネラティブ・ツーリズム」を展開するアートホテルです。

その取り組みは観光庁の「サステナブルな観光に資する好循環の仕組みづくりモデル事業」にも採択。

7月14日、2023度の関係者会議がとなみ散居村ミュージアムで開かれ、これまでの取り組みの進捗報告や今後のビジョンの共有、楽土庵の宿泊料から積み立てられた寄付金の贈呈などが行われました。

ぬかべっつぃで炊いたご飯

会場にただよう、なんとも香ばしくておいしそうな匂い。釡でご飯が炊かれている…? 参加者は昨年にひきつづき、散居村保全に関わる民間団体、行政、地域コミュニティ、民間事業 者、金融機関などの代表者、総勢約20名です。 この日はまずはじめに、「ぬかべっつぃ」で炊かれたツヤツヤのご飯がふるまわれました。 

「ぬかべっつぃ」とは、籾殻を燃料にしたご飯専用かつ持ち運び可能なかまどのこと。強い火力で、おいしくご飯を炊くことができます。

昨年度の会議で課題にあげられた、籾殻(もみがら)の処理問題。籾殻は捨てれば産業廃棄物ですが、燻炭化すれば優良な肥料になるなど、工夫次第で様々に活用できる有用物です。そのヒン トになればと、かつては農家でよく使われていたという「ぬかべっつぃ」での炊飯が行われまし た。

散居村でつくられた有機栽培のコシヒカリに、地域の方がつくられた胡瓜の三五八漬け、茄子の 辛子漬け、瓜の奈良漬け。どれもほんとうにおいしくて、ほっぺたが落ちるとはこのこと。

そのおいしさに、キャンプ場を経営する事業者の方から、「ぬかべっつぃでの炊飯体験をコンテンツとして提供したい」という声があがりました。

「お米がほんとうにおいしかった。ぬかべっつぃでの炊飯は、漬物や岩魚などおいしいものと一 緒に食べる体験商品として、成り立つと思いました。子供たちにも教えたいし、外国の方にもささる。観光資源として素晴らしいと思います」

カイニョお手入れ支援隊へ寄付金の贈呈

楽土庵ではリジェネラティブ・ツーリズムの一環として、宿泊・体験費の2%を地域の保全活動団体へ寄付しています。

開業から10ヶ月が経ち、いよいよ初めて寄付金がお渡しできることに。水と匠の代表・林口よ り、カイニョお手入れ支援隊代表・松田憲さんへ、寄付金の贈呈が行われました。

「トラックのレンタル代や道具の購入費に充てたいと思います。自分達でいうのもナンですが、私たちはとってもパワフルなんです。これからも精力的に活動していきますよ!」

いまの社会が求める価値がここにある

その後は林口より、宿泊されたお客様の感想や、本事業の目的があらためて共有されました

「散居村の風景を見て、涙を流されるお客様がいらっしゃいます。宿泊料とは別に寄付をいただ くこともあります。水田の風景には、人を癒したり、リチューニングする力があると実感するよ うになりました」

「いさみ太鼓などの体験もとても好評で、地域の方も良いモチベーションになるとおっしゃってくださいます。『散居村ウォーク』で歩かれている楽土庵のお客様と話すのが楽しい、と新聞に投書くださった地域の方もいらっしゃいました」 

「楽土庵は国内外200以上のメディアで掲載され、雑誌の巻頭特集でも大々的にとりあげられています。メディアの方が興味を持つということは、それだけ今の社会が求めている価値が、ここにあるということだと思うんです」

「かつて散居村では、厳しくも豊かな自然のなかで循環型の社会が形成されていました。それを現代的に再生し、地域内での経済循環やエネルギー循環をつくっていきたい。観光業による産業活性と地域保全から、ゆくゆくはナショナルトラスト運動、ユネスコ世界遺産複合遺産への登録も目指していきたいと思っています」

開業以来、楽土庵では地域の様々なプレイヤーと協力し、宿泊料の保全活動への寄付、散居村産の穀物をつかったメニュー開発、屋敷林の剪定枝からつくるアロマオイルの開発とアメニティへの使用、地域の工芸作家作品の使用と販売など、さまざまな取り組みをおこなってきました。

今年度はさらに分科会を組織し、以下の4事業を計画。

1、PRとコンテンツ造成:海外への販路開拓とPR、暮らしや地域の人と直接関われるような体験コンテンツの造成

2、好循環な仕組みづくり:寄附制度や保全コミュニティの整備、宿泊料金の2%を地域に還元する仕組みの強化、コミュニティの造成、空き家利用の促進、投資の促進

3、日本式循環型社会を目指して:地域内での経済・エネルギー循環に向けたリサーチ

4、地元の気運醸成:世界遺産を目指しての地域への啓蒙活動と機運醸成の強化

会議後半では、そのための意見交換が行われました。

散居村の循環型社会の再生を

特に活発に意見が交わされたのが、循環型社会の再生についてです。

「籾殻について、南砺市のJAでは家畜の糞尿と混ぜて堆肥化しています。ゴミにすると産廃になる籾殻。活用する価値あるものですが、そのためには大規模な施設が必要で、設備投資などの難しさもあります」

「籾殻処理はJAグループ全体としても課題なので、ベンチャー企業との引き合わせが可能かもしれません。燻炭化にはプラントが必要。県西部にひとつあるといいですよね」

プラントでの燻炭化については、試験的に取り組んでいる自治体もあるとのこと。引き続き情報収集が進められることになりました。

また水が豊富な富山。楽土庵では、小水力発電の可能性をもっと探っていきたいとも考えています。

また環境や景観に関わるものとしては、草刈りに関する課題が。丁寧に手入れされた畦は散居村の美しさを大きく特徴づけていますが、近年は高齢化や人手不足等により、手入れが難しくなってきています。

その対策として、会議ではトヤマ商事が開発する「エシカルグリーン」、クラピアという植物による防草方法が紹介されました。

廃石膏ボードからつくる土壌改良剤を合わせて使用することにより、どんな土地でもクラピアが繁茂する状態に。特許を取得している緑化方法で、除草剤のような環境への負荷もないとのこと。

JAの方から、まず管内で試してみたい、と前向きな声が聞かれました。  

世界遺産複合遺産を目指して

好循環な仕組みづくりや投資の呼び込みに関しては、空き家の取り扱いについて、「希望される方がその物件と合っているのか、投資目的であれば地域のためになるのかどうかの見極めが重要」といった声が聞かれました。

空き家は情報が地域に留まり、公開されていないことも多々あります。「うまく情報を集約し、行政の空き家バンクなどと連携していく仕組みについても部会で考えていきたい」と林口。

「お客様からは水田つきの家屋の購入や、農業体験を希望する声も聞かれます。ヨーロッパでは自分達で農地を持ち、体験の提供と同時に製造販売を行う、観光法人による農業経営も行われています。私たちも、そういうこともやっていけないかと思案中です」

「楽土庵の事業を通じて、たくさんの方に地域が持つ価値に共感いただき、そのポテンシャルをあらためて実感してきました。散居村のユネスコ世界遺産複合遺産への登録も、十分に可能だと思っています」

世界遺産の複合遺産とは、自然遺産と文化遺産の両方の登録基準を併せもち,自然と人間との共同作品ともいえる伝統的な生活様式を反映している遺産、自然と文化との結びつきを代表するもののことです。

散居村は、まさに自然と人間の共同作品。

今年度はナショナルトラストや世界遺産の研究者をコーチに招き、トラスト活動への具体的な取り組みもはじめていきます。

地域の人たちと、訪れてくださるお客さま、関心を持っていただける皆さまと。この土地が伝える価値を再生しつづける取り組みについて、ひきつづき見守っていただけましたら幸いです。

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