可能性を形にしていく関係づくり
-散居村の保全・活用に関する第2回関係者会議レポート-

2022.11.23 / 楽土庵について

楽土庵の取り組みは『散居村の保全・活用につなげる「再生型旅行」実証実験』として、観光庁の「サステナブルな観光コンテンツ強化モデル事業」に採択されています。

開業を約一月後に控えた2022年8月30日。となみ散居村ミュージアムにて、第2回関係者会議が開かれました。

この日の参加者は地域に関わる様々なプレイヤー約20名。カイニョお手入れ隊などの民間団体、富山県・高岡市・砺波市・南砺市・小矢部市の各行政、自治会や神社などの地域コミュニティ、アロマオイル製造などの事業者、銀行や農林中央金庫などの金融、エネルギー事業者、市議など、各種団体から代表者が集いました。

サーキュラーエコノミーへの転換は世界的な潮流

第2回会議では、まずはじめに株式会社SIGNING代表の清水佑介さんを講師に迎えた特別公演が行われました。演題は「世界中で推進されるサーキュラー・エコノミーとは」。

地球の限界<プラネタリー・バウンダリー>という概念を耳にする昨今。豪雨災害や山火事など、気候変動の影響を肌身に感じることも年々増えてきているなか、世界的な潮流としては際限ないGDPの成長を目的とする直線的経済(リニア・エコノミー)から、物質を循環させ環境との調和や人々のウェルビーイングを目指す循環型経済(サーキュラー・エコノミー)への転換がはかられています。

清水さんからは、そのサーキュラーエコノミーの概念について、また循環型経済への転換を具現化している先行事例について、多数ご紹介いただきました。

たとえば電球を製品販売ではなく、サブスクリプションのサービスへ転換した『PHILLIPS』。サブスクリプションは長期的な契約のため売上が増大し、これまでは電球の保守点検にPHILLIPS側人員が出向いていたのが、切れた時に都度顧客から連絡が入る仕組みに変わったため、コストも大きく削減されたのだそうです。また一説では「絶対に切れない電球」を開発したいという、研究者の強い動機を生み出したとも言われています。

経済のための人ではなく、人のための経済へ。お金のための開発ではなく、ほんとうに必要で心地よい暮らしのための仕事を。サーキュラーエコノミーへの転換は、働く人の心に大きく影響するものだと感じました。たくさんの廃棄物を出しながら、お金のために働くのは、環境への影響はもちろん、何より私たち自身が辛いのではないでしょうか。

他にも、ジーンズのサブスクリプション『MUD SEANS』、量り売りが基本のゼロ・ウェイスト・ストア『Little Plant Pantry』、廃棄食品をつかったレストラン『INSTOCK』、また2050年までに国全体をサーキュラーエコノミー化すると目標設定しているオランダの都市計画、高知県・上勝町のゼロ・ウェイストタウンとしての取り組み、北海道・下川町の循環型林業の事例などが紹介されました。

循環型経済はもともと日本の地域社会にあったもの?

参加者の皆さんからは、それぞれのプロジェクト設計の完成度に圧倒される声が多く聞かれました。

一方で、自身が関わってきた仕事である国宝寺院の文化財保護について思い出した、昔からこの土地で大事にされてきた価値観ではないか、などの声もあがりました。

たしかに、自然への感謝を基盤とする再生産をかなえる生産様式、祈りの儀式など、「循環」を軸とする文化や美意識は、古くから日本にあったものだと思います。いわゆる「日本文化」には、それらが今も息づいています。

ではなぜ現在の日本では、ビジネスの基盤、社会の基盤が循環型ではないのか。日本がサーキュラーエコノミーの先進地たりえていないのか。これは私たち日本人が考えうる、ひとつの大きな問いではないでしょうか。

同時に、綿密に設計されたシステムを人工的に統御していく方法論は、私たちには馴染みにくいものかもしれません。サーキュラーエコノミーの先進的方法に学びながらも、この土地に沿うものとして換骨奪胎していく必要もあるでしょう。

「はじめて地域の可能性を感じることができた」

古くから土地に伝わる文化や美意識を、どう自分たちらしく、今の社会に沿うものにしていけるか。

第二部では現在取り組まれている様々な試みについての事業進捗報告と、課題感の提示、意見交換などが行われました。

カイニョの(屋敷林)の活用としては、バイオエタノールを楽土庵の暖房に使用できないか検討中である旨の情報共有や、カイニョお手入れ支援隊と(株)プロジェクトデザイン アロマセレクトさんで試作中のアロマ精油についての報告がありました。

ラカンマキ、クロマツ、いずれの香りにも奥深い独特の魅力があり、製品としての可能性は多大ながら、大量の伐採枝の運搬の問題、精油化だけでは伐採枝を消化しきれない量の問題などの課題も共有されました。

課題が見え、共有されることは大きな一歩です。国産アロマオイルの原料は、その多くが屋敷林の伐採枝からつくられるのが普通になっている、そんな未来も想像できるように思いました。

水田の活用としては、楽土庵のイタリア料理レストラン「il clima(イル・クリマ)」の伊藤シェフより、酒米「雄山錦」でつくったリゾットや、米粉を使ったパスタや焼き菓子など、お米を活用したメニュー開発についてお話がありました。 こちらはぜひ、今後のイル・クリマの展開にご期待いただきたいところです。

また、もみ殻の利用について、もみ殻燻炭を肥料として望む声や、バイオマスやバイオエタノールへの加工に可能性が見出されつつも、現在は一時加工ができる事業者がないことが課題として挙げあれました。一方で、南砺市職員の方から、これまでの市町村の取り組みの中で、ペレット化の方法論が目に見えにくい場所に実は蓄積されているのではないか、といった指摘もありました。

そのほかにも水田オーナー制度について、用水路を活用した小水力発電について、2022年10月に小矢部市で開催される散居村サミットについてなどなど、多彩な議題が俎上にあげられ、それぞれに意見交換が行われました。

そうしたなかで印象的だったのは、「長らく散居村に住んできて、明るい話題にはじめて触れた気がした。これからの可能性を感じることができた」という声があがったことです。続けて楽土庵の活動について、「学校と協力して地域に子供達に伝える教育的役割も重要ではないか、それが地域の希望になり得るのではないか」といった意見も述べられました。

一挙に全ての問題が解決することはなくとも、一歩踏み出した点はいつか糸になり、面になって変化をもたらしていくはずです。楽土庵はそうした良き糸をつむぎ、良き織物を成していく場でありたい、そうあらためて実感しました。

民間事業者、行政、地域、エネルギー、金融、議会。多層的なプレイヤーが集まった風通しの良い会議体が実現していることも、この土地の土徳のひとつであると思います。先人の知恵と先進事例いずれにも学びながら、砺波散居村ならではの循環型経済をつくりだす、そのための関係づくりを今後も丁寧に行なっていきたいと思います。


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